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2013年 05月 06日
好きな論文。造血研究者なら誰もが知ってるだろう小川真紀雄先生だ。こういうソリッドな仕事をしたい。
ヒトのHSCはCD34陽性、マウスのHSCはCD34陰性。ややこしい。ポイントはその違いではなく、造血細胞のアイデンティティとは何か。CDなんとかで分けられるけど、それは絶対ではない。一区切りで区別されるのではなく、発生的な過程をずっとひきずっているseamlessな状態だ。この論文の図3,4,9がそれを物語っている。平常状態のマウスからとったCD34陰性細胞は生着するが、CD34陽性細胞は生着しない(図3)。しかし抗癌剤ストレスをかけたCD34陽性細胞は生着できる。だが8か月後には微妙に機能が落ちているように見える。また、ストレスをかけたCD34陰性細胞が図3に比べて生着がもっと良い(図4)。ストレスをかけたCD34陽性細胞が生着して3か月後、レシピエントから採ったCD34陰性細胞は生着するが、CD34陽性細胞は生着しない。また、ここでは図3,4の10倍の細胞数を移植していることに注意(図9)。 ここから考察されるのは、 1.CD34陰性細胞はHSCを含んでおり、ストレス下ではCD34陽性に転じる。しかしこの変化は一過性であり、いずれCD34陰性に戻る(脱分化)ことが図9の2次移植の結果よりわかる。またCD34陽性から脱分化したCD34陰性細胞におけるHSC機能(あるいは数)は、平常状態におけるCD34陰性細胞のそれの10分の1である。この減少が2次移植によるものか、脱分化が不十分なことによるか興味深い。この疑問はCD34陰性細胞を同じく2次移植したものと比べることでアドレスできる。 2.平常状態でCD34陽性の細胞はすでに造血機能を失っている。つまりエピジェネティックに「硬い」状態だと思われる。逆に、ストレスで一時的にCD34陽性になった細胞は脱分化ができるので「柔らかい」状態だと思われる。現状では分子の言葉で表せていない。 疑問として、ストレス下に現れたHSC機能をもつCD34陽性細胞は陰性細胞から来たのか?CD34陰性細胞が一時的に陽性細胞に変化したのではなく、ストレスが既存のCD34陽性細胞に対してエピジェネティックに硬い状態をほぐしHSC機能を付与した(脱分化)可能性もある。この回答はこの論文にはないが、厳密にストレス下にタイムコース観察をとると陰性細胞は生き残るが既存の陽性細胞は一旦ほぼ死滅することが知られている。よって、陽性細胞ではなくストレスにより生き残った陰性細胞が一時的に陽性となったことがmost likelyに考えられる。 よって、造血細胞のアイデンティティは表面抗原が絶対的なものでなく、より本質的な違いによって流動的に規定されていると考えられる。しかし平常状態のCD34陽性細胞がストレス下の脱分化能を失うことから、あるポイントを過ぎるとよほどのこと(iPSのように外来転写因子を無理やり導入)がないかぎり戻ることはない。血管のように、逆流防止の弁(エピジェネティックな関所)が随所にあるのだろう。
by sugirioblog
| 2013-05-06 14:05
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